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大阪高等裁判所 昭和32年(ラ)311号 決定

抗告人 日本土地株式会社

相手方 森蔭れい次

主文

本件抗告はこれを棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の要旨は、原決定は、第三者に対しては如何なる場合でも引渡命令を発し得ないとする不合理なもので、取消をまぬかれないというにあるが、当裁判所の判断はつぎのとおりである。

本件記録によると、申立外外村万次郎外二名は、申立外大仏証券株式会社に対する貸金債権担保のため、同会社所有の原決定添附別紙目録記載の物件全部につき、昭和三一年一〇月一五日抵当権の設定を受けたところ、右会社は債務の履行をなさなかつたため、右債権者らは、右抵当権に基き、右物件全部につき、大阪地方裁判所に競売を申立て、同裁判所は昭和三二年(ケ)第一〇二号事件として、同年三月二〇日、競売開始決定があり、右手続が進行して、同年九月一七日抗告人は右建物を競落し、同月二〇日右競落許可決定があり、抗告人は同月三〇日右競落代金を完納して、その所有権を取得したこと、抗告人はその後、右競落建物の中本件引渡命令申立部分を除き、その余の部分につき、同年一〇月一六日前記大仏証券株式会社に対する引渡命令を得て、その引渡を受けたが、右執行の際、目的外である本件引渡命令申立部分についても執行をなしたので、右部分の占有者である相手方において、右違法執行を理由として、同裁判所に占有回収を本訴とする占有回復の仮の地位を定める仮処分を申請し、右申請が許容され、右建物部分は執行吏の保管に移され、相手方に使用を許可されたことが認められる。しかして抗告人提出の「住民票」によると相手方は、右競売開始決定後である昭和三二年八月二六日奈良県吉野郡吉野町大字上市一二八番地から、本件建物所有地に転入した旨記載あることが認められる。

ところで抵当権の実行による建物の競売では競売人に対抗できる賃貸人を除いて、抵当建物の所有者らは、競落人の競落代金支払後は、その建物から退去しなければならず、その場合、競落人は右建物所有者に対する訴によつて明渡を求める必要なく、競売法第三二条第二項、民事訴訟法第六八七条によつて競売裁判所に引渡命令を求めて引渡を求め得るのであるが、これは競売の後始末として競落人のため所有者として当然行使し得べき占有を簡易迅速な手続によつて得せしめるため、特に設けられた制度であるが、この場合競売不動産所有者以外の第三者に対しても右引渡命令を発し得るか否かは、場合により諸説の分れるところであるが、抵当建物について競売開始決定がなされ、その旨の登記手続を経て差押の効力が生じた後、競売手続の進行中に右建物の占有を始めた第三者全部に対し、抵当建物所有者の占有承継者として引渡命令を発し得るものと解するときは、競落人にとつて甚だ便利であり前記引渡命令を設けた趣旨には一応合致するものであるけれども、一方第三者の占有権限の有無の終局的判断は競売裁判所の本来の職責ではなく、簡単な調査では明白にし難い場合もあり、これを明らかにしようとすれば競売手続に附随した後始末の手続が通常の訴訟と変りなくなつて妥当でないことを考慮するときは、競売裁判所が引渡命令を発し得るのは、簡易に調査認定し得る抵当不動産の所有者の一般承継人、または競売開始決定が差押の効力を生じた以後抵当不動産所有者から不動産の占有を承継した第三者に対する場合に限るものと解するのが相当である。ところが本件においては、相手方は前記「住民票」により一応本件競売開始決定後に本件建物に転入、その占有を始めたものと認めるとしても、その占有が、右競売建物の所有者大仏証券株式会社よりその占有を承継したものであるかどうか、これを明らかにする疏明なく、またその占有は前記の如く、前記仮処分命令に基き、本件建物を占有する執行吏よりその使用を許されている関係のものであるから、かかる場合においては、相手方に対して、右競売不動産所有者の占有承継者として、抗告人申立の引渡命令を許容すべき場合と認め難いものである。以上要するに、原決定はその理由において妥当でないところがあるが、抗告人の本件引渡命令を認容しなかつた結論は他の理由で正当であるから民事訴訟法第四一四条第三八四条第八九条に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 藤城虎雄 亀井左取 坂口公男)

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